
結論:60代は氷河期世代の定義に一切該当しない
結論から述べる。2026年時点で60代(60歳〜69歳)に該当する生まれ年は、1957年〜1966年生まれだ。この範囲は、氷河期世代の代表的な4つの定義(大卒基準1970〜1983年生まれ、高卒基準1974〜1987年生まれ、コア世代1975〜1984年生まれ、経済財政白書基準1974〜1983年生まれ)のいずれにも重ならない。最も対象年齢の広い大卒基準でさえ、対象は1970年生まれからであり、60代最年少の1966年生まれとの間にも、4年分のギャップがある。
| 定義 | 対象生まれ年 | 60代(1957〜1966年生まれ)との関係 |
|---|---|---|
| 内閣府・厚労省(大卒基準) | 1970〜1983年生まれ | × 全く重ならない(最短でも4年のギャップ) |
| 内閣府・厚労省(高卒基準) | 1974〜1987年生まれ | × 全く重ならない |
| 内閣府男女共同参画局(コア世代) | 1975〜1984年生まれ | × 全く重ならない |
| 経済財政白書(2019年版基準) | 1974〜1983年生まれ | × 全く重ならない |
この表を見れば一目瞭然だが、60代と氷河期世代の生まれ年は、どの定義を採用しても完全に分離している。40代・50代のように、定義によって該当・非該当が分かれる「境界世代」とは異なり、60代は明確に「氷河期世代の外側」に位置する年代だと言える。この点は、これまで見てきた40代・50代の記事とは対照的な、明快な結論だと言える。
60代前半はバブル世代の中核
60代前半にあたる1963年〜1966年生まれは、大学をストレート卒業した場合、1986年〜1989年前後に就職活動を迎えている。この時期はまさにバブル経済の絶頂期であり、大卒求人倍率は2倍台後半〜3倍近くに達していた。複数の内定を得ることが当たり前とされ、就職氷河期とは正反対の、空前の売り手市場を経験した世代だ。
一般的に「バブル世代」は1965年〜1970年生まれ前後とされることが多く、60代前半(1963〜1966年生まれ)はこのバブル世代の中核〜やや年長の層に位置する。氷河期世代が経験した求人倍率0.99倍〜1.5倍程度という水準とは、まさに対照的な環境で社会に出た世代だと言える。
バブル世代の就職活動では、企業側が学生を旅行や飲食で接待する「青田買い」が横行し、内定を複数抱えたまま就職活動を続ける学生も珍しくなかった。当時の売り手市場ぶりは、現代の氷河期世代からすれば、想像しがたいほどの好条件だったと言えるだろう。
図1:60代・氷河期世代・境界年代の大卒求人倍率比較
出典:リクルートワークス研究所「大卒求人倍率調査」を基に作成
60代後半は「新人類世代」「団塊の世代」に近い年代
60代後半にあたる1957年〜1962年生まれは、バブル世代よりもさらに年長にあたり、1960年代生まれの前半層として「新人類世代」の中核、あるいは団塊の世代(1947〜1949年生まれ)のすぐ後に続く年代に位置する。この世代は、大学をストレート卒業した場合、1979年〜1985年前後に就職活動を迎えており、オイルショック後の安定成長期から、バブル経済の助走期にかけての、比較的落ち着いた雇用環境で社会に出た世代だ。
| 世代呼称 | 生まれ年(概ね) | 2026年時点の年齢 |
|---|---|---|
| 団塊の世代 | 1947〜1949年生まれ | 77〜79歳 |
| 新人類世代(前期) | 1957〜1962年生まれ | 64〜69歳 |
| バブル世代 | 1965〜1970年生まれ前後 | 56〜61歳 |
| 氷河期世代(大卒基準) | 1970〜1983年生まれ | 43〜56歳 |
この整理からも分かる通り、60代は「新人類世代」から「バブル世代」にまたがる年代であり、氷河期世代とは完全に別の時代を生きてきた世代だ。年齢的には氷河期世代の一世代上、あるいは二世代上にあたり、多くの場合、氷河期世代の親世代や、職場の先輩・上司世代にあたる。
職場においても、60代は氷河期世代にとっての直属の上司や、経営層として関わることが多い世代だ。世代間の価値観の違いから、働き方や評価制度をめぐって摩擦が生じることもあるが、その背景には、それぞれが全く異なる時代の労働市場を生き抜いてきたという事実があることを、理解しておくとよいだろう。
- 60代を「まだ氷河期世代の範囲内」と誤解する
- 「高齢者の雇用問題」全般を、氷河期世代の話と混同する
- 60代の子どもが氷河期世代であることと、60代本人が氷河期世代であることを混同する
- 60代は氷河期世代の定義に該当しない、明確に別の世代だと理解する
- 60代前半はバブル世代、後半は新人類世代に近い年代だと整理する
- 60代は多くの場合、氷河期世代の親世代・先輩世代にあたると理解する
なぜ「60代も氷河期世代では」という混同が起きるのか
60代と氷河期世代は明確に別の世代であるにもかかわらず、なぜ混同が起きることがあるのだろうか。いくつかの理由が考えられる。
- 高齢者雇用問題との混同:60代の再就職・定年後雇用の難しさと、氷河期世代の就職難が、どちらも「雇用の厳しさ」という共通のテーマで語られるため、混同されやすい。65歳雇用延長や再雇用制度をめぐるニュースが、氷河期世代の支援策と同時期に報じられることも、この混同を助長している一因だと考えられる。
- 親子関係による混同:60代の親世代にとって、子どもが氷河期世代に該当するケースは非常に多い。この家族関係の近さから、「うちも氷河期世代の話だ」という形で、当事者意識を持たれることがある。子どもの就職活動の苦労を間近で見てきた親が、自分自身の経験と重ね合わせて語ることも、この混同の一因になっていると考えられる。
- 氷河期世代の高齢化に伴う将来的な接近:時間が経つにつれて、現在の氷河期世代がやがて60代に達する未来が来る。この将来像と、現在の60代を混同してしまうケースも考えられる。
- メディア報道での曖昧な世代区分:「就職難世代」「非正規雇用世代」といった表現が、氷河期世代と高齢者雇用問題の両方に使われることがあり、読者側で世代の区別があいまいになりやすい。
60代が経験してきた、日本経済の大きな転換点
60代が生きてきた時代を振り返ると、日本経済の大きな転換点をいくつも経験してきた世代であることが分かる。60代後半(1957〜1962年生まれ)は、社会人になった直後の1970年代に二度のオイルショックを経験し、その後1980年代の安定成長期からバブル経済へと向かう過程を、社会人としてリアルタイムで経験してきた。60代前半(1963〜1966年生まれ)は、まさにバブル経済の絶頂期に就職し、その後1990年代のバブル崩壊、2000年代の氷河期本体、2008年のリーマンショックを、それぞれ管理職・経営層という立場で経験してきた世代でもある。
| 出来事 | 発生年 | 60代(当時)の立場 |
|---|---|---|
| オイルショック(第一次・第二次) | 1973年・1979年 | 就職活動期〜社会人初期 |
| バブル経済絶頂期 | 1987〜1990年 | 就職活動期(60代前半) |
| バブル崩壊 | 1991年 | 20代後半〜30代前半の中堅社員 |
| 金融危機(山一証券等破綻) | 1997年 | 30代の中堅〜管理職候補 |
| リーマンショック | 2008年 | 40代の管理職・経営層 |
この年表からも分かる通り、60代は氷河期世代のように「就職活動時に」深刻な不況を経験したわけではないが、その後のキャリアを通じて、複数の経済危機を、管理職や経営層という、より責任の重い立場で経験してきた世代でもある。就職氷河期世代とは異なる形の重圧を、それぞれの時代で担ってきたと言える。
特に、バブル崩壊後の1990年代から2000年代にかけて、60代の多くは中間管理職として、部下のリストラや早期退職勧奨といった、精神的に重い役割を担わされてきた。氷河期世代が「採用されない苦しみ」を経験した一方、60代の一部は「部下を切らざるを得ない苦しみ」を経験してきたという、それぞれ異なる種類の困難があったことも、理解しておく価値がある。当時の管理職として、新卒採用を絞らざるを得なかった当事者が、まさに60代の一部だったという皮肉な巡り合わせも、押さえておきたい事実だ。
60代の親を持つ氷河期世代——家族としての視点
氷河期世代の多くにとって、60代は親世代にあたる。この親世代は、バブル経済の恩恵を受けた世代であると同時に、現在は介護や老後の生活設計といった、別の課題に直面している世代でもある。氷河期世代が自身のキャリアや資産形成に苦労してきた一方、その親世代である60代は、年金受給や退職金といった面で、相対的に恵まれた世代だとされることもある。
この世代間の資産格差は、時に親子間の価値観の違いとして表面化することがある。「なぜ自分たちの世代だけこんなに苦労するのか」という氷河期世代の思いと、「自分たちの若い頃はもっと大変だった」という60代の思いが、噛み合わないまま平行線をたどるケースも少なくない。しかし、双方が経験した時代背景を正確に理解し合うことで、こうした世代間の摩擦は、ある程度緩和できるはずだ。
特に、60代の親を持つ氷河期世代にとっては、親の介護や資産承継といった、今後向き合うべき現実的な課題も増えていく。世代間の違いを頭ごなしに批判するのではなく、互いの時代背景を理解した上で、今後の家族としての在り方を建設的に話し合うことが、双方にとって有益な選択になるはずだ。
60代の年金・退職金事情——氷河期世代との比較
60代は現在、定年退職を迎え、年金受給が本格化する時期にあたる。この世代の年金・退職金事情は、氷河期世代がこれから迎える老後と比較して、しばしば議論の的になる。60代は、終身雇用・年功序列という日本型雇用システムの恩恵を、氷河期世代よりも長く受けてきた世代であり、企業年金や退職金の水準も相対的に手厚いとされることが多い。
一方、氷河期世代は、非正規雇用の拡大や転職の増加により、退職金・企業年金の積み立てが手薄になりがちな傾向が指摘されている。この世代間の格差は、「60代が逃げ切った」という単純な物語で語られることもあるが、実態はより複雑だ。60代の中にも、バブル崩壊後のリストラで早期退職を余儀なくされ、退職金を十分に受け取れなかった人や、非正規雇用に転じた人も一定数存在する。
また、年金制度そのものも、60代が受給する世代と、氷河期世代が将来受給する世代とでは、給付水準や支給開始年齢の設計が異なる可能性がある。マクロ経済スライドによる給付調整など、制度上の違いも、世代間の資産格差を論じる上では見逃せない要素だ。単純に「今の60代は得をしている」と断定する前に、こうした制度的な背景も含めて理解しておく必要がある。
- 60代を「逃げ切り世代」として一括りに批判する
- 60代全員が手厚い年金・退職金を受け取っていると決めつける
- 世代間格差を、個人の努力とは無関係な運の問題として片付ける
- 世代全体の傾向と、個々人の実態を区別して理解する
- 60代の中にも、経済的に厳しい状況にある人が一定数存在することを踏まえる
- 世代間格差の議論を、個人攻撃ではなく構造の理解に活かす
SNSで飛び交う言説への反論
よくある質問
Q. 60代は本当に氷河期世代の定義に該当しないのか?
A. 該当しない。内閣府・厚労省の4つの代表的な定義いずれにおいても、対象生まれ年の上限は1970年生まれ以降であり、60代(1957〜1966年生まれ)とは重ならない。
Q. 60代はどの世代呼称に該当するのか?
A. 60代前半はバブル世代の中核、60代後半は新人類世代に近い年代に該当する。生まれ年によって、就職活動時の景気環境も大きく異なる。
Q. 60代の再就職の難しさと、氷河期世代の就職難は同じ問題か?
A. 異なる。60代の場合は年齢による採用のハードルが主な要因であり、氷河期世代の場合は特定の生まれ年が経験した時代背景の問題だ。それぞれ原因が異なるため、必要な対策も異なってくる。
Q. 氷河期世代がやがて60代になったら、この記事の内容は変わるのか?
A. その通りだ。現在の氷河期世代コア層(1975〜1984年生まれ)が60代に達するのは、2035年〜2054年頃になる。その時期には「60代=氷河期世代」という新たな対応関係が成立することになる。年齢と世代呼称の対応関係は、常に時間とともに移り変わっていくものだと理解しておきたい。
Q. 60代と氷河期世代の資産格差は、本当に存在するのか?
A. 平均的な傾向としては指摘されることが多いが、個人差も大きく、一概には言えない。世代全体の傾向と、個々の状況は分けて考える必要がある。
Q. 60代は本当に「逃げ切り世代」と言えるのか?
A. 一概には言えない。60代の中にも、バブル崩壊後のリストラや早期退職で経済的な打撃を受けた人は一定数存在する。世代全体を単純化して語ることには注意が必要だ。年金制度の設計や退職金水準は世代によって異なるが、個々人の状況にはそれぞれ大きな幅がある。
Q. 60代が経験した経済的な出来事にはどのようなものがあるか?
A. オイルショック、バブル経済とその崩壊、金融危機、リーマンショックなど、キャリアの様々な段階で複数の経済的転換点を経験してきた世代だ。
世代の境界を正確に理解するための3つの視点
結論:60代は氷河期世代の外側、別の時代を生きた世代だ
2026年時点の60代(1957年〜1966年生まれ)は、氷河期世代の公式定義のいずれにも該当しない。60代前半はバブル経済の恩恵を受けた「バブル世代」の中核、60代後半は「新人類世代」に近い年代であり、氷河期世代とは全く異なる時代背景の中でキャリアをスタートしている。
この境界を正確に理解することは、世代論を語る上での基本的な前提だ。「高齢者の雇用問題」と「氷河期世代の就職難」は、性質の異なる別の問題であり、両者を混同せずに、それぞれに応じた理解と対策を考えることが重要だ。世代間の違いを正確に理解した上で、必要な場面では世代を超えた連帯を築いていく視点を持ちたい。
氷河期世代がいずれ60代に達する日は、そう遠い未来ではない。その時、現在の60代が経験してきた老後の課題——年金、退職金、介護、健康——に、氷河期世代自身も直面することになる。今の60代を「別世界の人々」として切り離すのではなく、いずれ自分たちも通る道として、その実態から学べることは積極的に学んでおきたい。
世代の境界線を正確に引くことは、単なる知識の整理にとどまらない。誰が、いつ、どのような時代背景を経験したのかを正確に把握することは、世代間の無用な対立を避け、それぞれの経験に敬意を払うための、最も基本的な作法だと言える。60代と氷河期世代、それぞれの物語を正しく理解した上で、両者の対話を深めていきたい。
やがて氷河期世代自身も60代に達し、今度は自分たちが次の世代から語られる立場になる日が来る。その時、自分たちがどのように語られたいかを想像することは、今の60代を理解する上でも、有益な視点になるはずだ。世代論とは、常に鏡のように、語る側と語られる側が入れ替わり続ける営みだ。この循環を意識しておくことが、目の前の世代間ギャップと向き合う際の、冷静さを保つ助けになる。