
ダブルケアは、「他人事」ではない
晩婚化・晩産化が進んだ氷河期世代の中には、「育児と介護が同時に来るなんて、そう滅多にあることではない」と、楽観視している人が少なくない。しかし、内閣府男女共同参画局の調査データを確認すると、異なる実態が見えてくる。ダブルケアを行う人は、全国で少なくとも25万3千人(女性16万8千人、男性8万5千人)にのぼるとされ、その数は増え続けているとされる。
さらに、働き盛り世代の5人に1人が、まもなくダブルケアに直面すると指摘されている。氷河期世代は、晩婚化・晩産化の影響を強く受けた世代でもあり、子育てのピークと親の介護開始時期が重なりやすい、構造的なリスクを抱えている。
特にダブルケア世帯では、月間支出が7万5千円以上増加するというデータもある。育児費用と介護費用が同時に発生することで、家計への負担が、急激に膨らむリスクがある。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ダブルケアを行う人の推計数 | 少なくとも25万3千人(女性16万8千人・男性8万5千人) |
| 月間支出の増加額 | 7万5千円以上(保険相談機関の調査による) |
| 働き盛り世代の直面可能性 | 5人に1人 |
図1:ダブルケアを行う人の男女別内訳イメージ
出典:内閣府男女共同参画局「育児と介護のダブルケアの実態に関する調査報告書」を基に作成
ダブルケアで、課題となる制度の壁
ダブルケアに直面した際、大きな壁となるのが、育児と介護で行政の相談窓口が異なるという制度面の課題だ。育児は子育て支援窓口、介護は地域包括支援センターと窓口が分かれているため、迅速かつ適切な対応を受けにくいという実態がある。
この課題に対応するため、厚生労働省は「重層的支援体制整備事業」を進めている。多様な相談を断らず受け止め、つながり続ける支援体制を構築し、複合化・複雑化した世帯ごとの課題に対応する、総合的な相談体制づくりが、進められている。
氷河期世代としては、こうした制度の存在を事前に知っておくことが重要だ。育児と介護、それぞれ別々の窓口だと思い込んで、情報収集を諦めてしまうのではなく、統合的な相談窓口を探す視点を持ちたい。
| 課題・対応 | 内容 |
|---|---|
| 窓口の分断 | 育児は子育て支援窓口、介護は地域包括支援センターと別々 |
| 重層的支援体制整備事業 | 複合的な世帯課題への総合的な相談体制を構築中 |
| 推奨される行動 | 統合的な相談窓口の有無を、事前に自治体へ確認する |
ダブルケアへの備えの違い
- 育児と介護は、別々の問題として考えてしまう
- 親族との負担分担を話し合っていない
- 地域の支援制度を調べたことがない
- ダブルケアが起きた場合の負担分担を、家族と話し合っている
- 親が元気なうちに、介護について話し合っている
- 子育て・介護に関する地域の支援制度を、事前に調べている
ダブルケアに備える、具体的な準備
90日で整える、ダブルケア準備ロードマップ
-
1〜2週目
親と配偶者、それぞれの状況を整理する。現状把握から始める。
-
3〜6週目
地域の子育て・介護支援窓口を調べる。統合的な相談先を探す。
-
7〜10週目
家族と負担分担について話し合う。役割を明確にしておく。
-
11〜13週目
90日間の準備を振り返る。家計・体制の見直しを行う。
このロードマップの目的は、90日でダブルケアの全てに備えることではなく、「複数の負担を同時に見据える習慣」を確立することにある。PDCAの姿勢は、ダブルケアという領域においても、有効に機能する。
なぜ、ダブルケアが増加しているのか
ダブルケアが、増加している背景には、晩婚化・晩産化という社会構造の変化がある。結婚・出産年齢が上昇したことで、子育てのピーク時期が後ろにずれ込み、親の介護開始時期と重なりやすくなっている。
氷河期世代は、この晩婚化・晩産化の影響を、他の世代よりも強く受けやすい層でもある。就職氷河期という厳しい時代を経験し、経済基盤の安定に時間を要したことが、結果的に結婚・出産のタイミングを遅らせるケースも少なくない。
さらに、核家族化の進行も、ダブルケアの負担を重くする要因になっている。かつては大家族の中で分担されていた育児・介護の役割が、核家族単位に集中しやすくなり、一人あるいは夫婦のみで両方を担わざるを得ない状況が生まれやすい。
| 要因 | 内容 |
|---|---|
| 晩婚化・晩産化 | 子育てピークと親の介護時期が重なりやすくなる |
| 核家族化 | 育児・介護の役割分担先が少なくなる |
| 氷河期世代特有の事情 | 経済基盤の安定に時間を要し、晩婚化が進みやすい |
諸外国と比較する——ダブルケアへの社会的支援の違い
ダブルケアへの社会的支援のあり方は、国によって特徴が異なる。北欧諸国では、育児・介護双方への公的支援が手厚く、統合的な相談窓口も整備されている傾向がある。一方、日本では、窓口が分かれている現状があり、当事者自身が複数の制度を横断的に把握する必要性が高い。
この違いを踏まえると、日本でダブルケアに直面する氷河期世代にとっては、制度の統合を待つだけでなく、自己主導的な情報収集が、より重要な意味を持つ。「雇われる思考からの脱却」という方向性は、ダブルケアへの備えにおいても、自己主導的な姿勢として応用できる。
| 地域 | 特徴 |
|---|---|
| 北欧諸国 | 育児・介護双方への公的支援が手厚く、統合的な窓口も整備 |
| 日本 | 窓口が分かれており、当事者の横断的な情報収集が必要 |
| 本記事が推奨する姿勢 | 制度統合を待たず、自己主導的に情報を集めて備える |
セルフチェック:あなたのダブルケア準備度を確認する
以下の項目に正直に向き合ってみてほしい。当てはまらない数が多いほど、ダブルケアへの備えの見直しが、今の自分に必要とされている可能性が高い。
| チェック項目 | 該当 |
|---|---|
| 親の年齢・健康状態を把握している | □ |
| 配偶者と負担分担について話したことがある | □ |
| 地域の子育て・介護支援窓口を調べたことがある | □ |
| ダブルケアが起きた際の家計シミュレーションをしている | □ |
| 職場の両立支援制度を把握している | □ |
習慣として、ダブルケアへの備えを維持する方法
ダブルケアへの備えは、一度整えれば終わりというものではなく、継続的な見直しが必要になる性質のものだ。ここでは、長期にわたって備えを維持するための、具体的な工夫を紹介する。
第一に、半年に一度、親の健康状態や子どもの成長状況を、まとめて振り返る時間を持つことが有効だ。状況は、変化していくため、定期的な見直しが欠かせない。
第二に、配偶者や兄弟姉妹と、負担分担について定期的に対話する機会を持つことも重要だ。一人で抱え込まず、家族全体で備えを共有したい。
第三に、地域の支援制度の情報を、定期的にアップデートすることも効果的だ。PDCAの姿勢をダブルケアへの備えにも、適用していきたい。
| 工夫 | 実践頻度 | 期待される効果 |
|---|---|---|
| 半年に一度の状況総点検 | 半年に1回 | 変化への早期対応 |
| 家族との定期的な負担分担対話 | 数ヶ月に1回 | 家族全体での認識共有 |
| 支援制度情報の定期更新 | 年1回程度 | 最新制度の活用漏れ防止 |
SNSで飛び交う言説への反論
よくある質問
Q. そもそも根本的な話として、ダブルケアは、どのくらいの期間続くものか?
A. 個々の状況によって大きく異なるが、複数年にわたるケースも少なくないとされる。長期戦を見据えた備えが望ましい。
Q. 一番最初に確認しておきたい、ダブルケアに関する相談は、どこにすればよいか?
A. 地域包括支援センターや、自治体の重層的支援体制整備事業の窓口に相談することが有効だ。複数の窓口を併用してもよい。
Q. また合わせて確認したいが、職場にダブルケアの状況を伝えるべきか?
A. 早めに伝えることで、働き方の調整について相談しやすくなる。詳細を全て話す必要はなく、最低限の共有でよい。
Q. さらにより具体的に、ダブルケアの負担を軽減する方法はあるか?
A. 家族間での役割分担、外部サービスの活用、地域の支援制度の利用が、負担軽減の柱になる。複数の手段を組み合わせたい。
Q. もしも万が一、ダブルケアで、精神的に追い詰められた場合はどうすればよいか?
A. 一人で抱え込まず、カウンセリングや相談窓口を頼ることが重要だ。精神的な余裕を保つことも、備えの一部だ。
Q. ダブルケアへの備えは、いつから始めるべきか?
A. 親の年齢や自分の子育て状況を踏まえ、できるだけ早い段階から情報収集を始めることが望ましい。
Q. なお併せて、兄弟姉妹がいる場合、ダブルケアの負担はどう分担すべきか?
A. 育児と介護、それぞれの負担を明確に分けて話し合うことが有効だ。片方だけに負担が偏らないよう、配慮を心がけたい。
Q. それでは実際に、ダブルケアと仕事の両立は、可能か?
A. 介護休業制度や時短勤務など、複数の制度を組み合わせることで、両立の可能性は高まる。早めの相談が、鍵になる。
Q. さらに言えば具体的に、ダブルケアの経験は、将来のキャリアにどう影響するか?
A. 一時的な制約は生じるが、両立の経験自体が、マネジメント能力や優先順位づけの力として評価される場合もある。
Q. ちなみに補足すると、ダブルケア中に自分の時間を確保する方法はあるか?
A. 外部サービスや家族との分担を活用し、短時間でも自分だけの時間を意識的に確保することが、心身のバランス維持に有効だ。無理をしすぎないことも、大切だ。
Q. 最後に確認したいが、子どもにダブルケアの状況をどう伝えればよいか?
A. 子どもの年齢に応じて、無理のない範囲で状況を共有することで、家族としての協力体制を築きやすくなる。過度な負担を求めないことも、重要だ。
職場とのコミュニケーションを大切にする
ダブルケアを乗り切る上で、職場との適切なコミュニケーションが欠かせない。育児と介護、両方の負担が重なっていることを早めに職場へ共有しておくことで、働き方の調整がしやすくなる。
具体的には、「急な休みが発生する可能性がある」という情報を、事前に上司や同僚と共有しておくことが有効だ。全てを詳細に話す必要はないが、最低限の情報共有が、信頼関係の構築につながる。
また、自分の業務が特定の人にしか対応できない状態にしないことも重要だ。業務の属人化を防ぎ、チーム内で情報を共有しておくことで、急な対応が必要になった際にも、周囲がカバーしやすい体制を整えられる。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 早めの情報共有 | ダブルケアの状況を、事前に上司・同僚へ伝える |
| 業務の属人化防止 | 特定の人にしか対応できない業務を減らしておく |
| 制度の活用 | 介護休業・時短勤務等、複数の制度を組み合わせる |
結論:ダブルケアという課題は、事前の備えで乗り越えられる
ダブルケアを行う人が全国で少なくとも25万3千人にのぼり、働き盛り世代の5人に1人が直面するとされるデータは、この課題が「他人事」ではないことを示している。家族との負担分担の話し合い、地域の支援制度の把握という、小さな準備が、長期的な家計と時間の安定を支える。
ダブルケアは、直面してから慌てるものではなく、事前に備えるものだ。それが、上昇志向の姿勢を、ダブルケアというテーマに応用する方法だ。
育児と介護のダブルケアへの備えを一歩から、進めていってほしい。氷河期世代おじさんは、あなたの人生を、心から応援している。
最後に、強調しておきたいのは、ダブルケアへの備えは一朝一夕に完成するものではないということだ。今日、一つの情報収集を始められたなら、それは確実な前進だと捉えてほしい。完璧を求めず、焦らず、日々の小さな準備を積み重ねていく姿勢こそが、長期的な安心への近道になる。
ダブルケアは、一人で抱え込む問題ではない。家族、職場、そして地域の支援制度という、複数の力を借りながら、焦らず乗り越えていってほしい。